厚生労働省が令和2年度に発表した「医療分野の情報化の推進について」によれば、電子カルテの普及率は、一般病院で57.2%、一般診療所では49.9%となっています。平成20年では、病院・診療所ともに普及率がおよそ14%であり、大幅に増えていることがわかります。
しかし、全体の半数ほどは導入していない医療機関があるのが現状です。電子カルテを導入したいけど踏みきれない理由として、導入コストが高いという問題があります。
そこで、本記事では無料で導入できる電子カルテや導入コストが低い電子カルテについて紹介します。また、電子カルテの導入コストを抑える方法についても徹底解説します。「電子カルテの導入コストをできるだけかけたくない」と考えている医療機関の方はぜひ、参考にしてください。
無料の電子カルテ導入前に知っておきたいコストを左右するポイント
電子カルテを導入する際に、コストを左右するポイントについて解説します。コストを左右するポイントは、以下の6つです。
- オンプレミス型かクラウド型
- サポート体制
- レセコン一体型
- カスタマイズ性
- ライセンス数
- データ移行
電子カルテの導入にあたって、どのポイントでコストが発生するのか知っておくことで、コストをおさえることに役立ちます。
オンプレミス型かクラウド型
電子カルテの種類には、オンプレミス型かクラウド型があり、どちらを選択するかによって、導入コストが大きく変わります。
コストをおさえ電子カルテを導入できるのは、クラウド型です。オンプレミス型・クラウド型、それぞれのコストが実際にどのくらい差があるか、みていきましょう。
オンプレミス型
オンプレミス型の電子カルテの場合、コストの相場は以下のとおりです。
初期費用 | 300万円〜500万円 |
---|---|
その他の費用 | 2万円〜5万円 |
オンプレミス型の電子カルテは、サーバーとソフトウェアを設置する必要があるため、導入コストが高額になります。メリットは、セキュリティ面が優れていること、カスタマイズ性があることです。
クラウド型
クラウド型の電子カルテの場合、コストの相場は以下のとおりです。
初期費用 | 10万円〜数十万円 |
---|---|
その他の費用 | 月額1〜数万円 |
クラウド型の電子カルテは、院内にサーバーを置く必要がありません。インターネット環境さえあれば、パソコンやタブレットで使用できるため、オンプレミス型に比べ、低コストで始めることができます。クラウド型の電子カルテについては、後述で詳しく解説しますので、そちらを参照ください。
サポート体制
サポート体制をつけるかどうかによって、導入コストが変わります。
無料のサポート体制があるメーカーもありますが、有料で行っているメーカーもあります。もちろん、無料のサポートは有料のサポートほど、手厚く行ってくれません。
メーカーのサポートは、導入前の操作方法の研修や導入後のトラブル対応などです。また、対応はメールのみで電話での対応は追加料金がかかるというサービスもあります。
サポートをつけずに、自施設で導入前の準備やトラブルの対応を行うと、時間や手間がかかり、コストパフォーマンスが落ちる可能性があるので、注意が必要です。
サポート体制の内容によって、コストが変わることを覚えておきましょう。そのため、導入コストをおさえるには、無料で受けられるサポート内容、有料のサポートの内容や費用について、事前に確認しておくとよいでしょう。
レセコン一体型
レセコン一体型の電子カルテの方がコストが高くなります。レセコンとは、医療機関において保険診療の請求処理を行うためのコンピューターシステムです。
レセコン一体型は、電子カルテ上で診療費の計算ができ、電子カルテとレセコンそれぞれの操作の方法を覚える必要がありません。けれども、既存のレセコンと連動させるタイプと比べると、コストがかかります。
既存のレセコンと連動させるタイプは、導入費用は安価で済みます。また、システム障害が発生しても、どちらか一方が使用できることがメリットです。分離型を選択する場合は、既存のレセコンと導入する電子カルテが連動できるかどうか、事前に確認しておきましょう。
一体型か分離型の選択は、コスト効益比を加味し、自施設にあわせて導入しましょう。
カスタマイズ性
カスタマイズの有無によって、追加で料金がかかります。メーカーによって、自施設に合わせ使いやすいようにするために、カスタマイズできるものがあります。
たとえば、診療記録のテンプレートや文書フォーマット追加などが可能です。
それぞれの施設の仕様や業務プロセスに合わせてカスタマイズすることで、作業の効率は上がりますがコストは高くなります。
ライセンス数
電子カルテのライセンスの数によっても、導入コストが変わってきます。電子カルテのライセンスには、クライアントライセンス(パソコンの台数)、ユーザーライセンス(利用人数)、病床規模別ライセンスがあります。
ライセンス数が増えるほど、コストが高くなります。そのため、予算に合わせてパソコン台数や利用人数を決めなければいけません。
データ移行
使用している電子カルテや紙カルテのデータを移行する場合、コストがかかります。データを移行するためには、データの整理や必要なフォーマットに変換、新システム適合などの作業を行わなければいけません。
作業には手間と時間がかかるだけでなく、専門的な知識も必要となります。そのため、メーカーにデータの移行を依頼すると、コストが発生します。
無料の電子カルテの選び方は?
高額なコストがかかる電子カルテが、無料で導入できることはとても魅力的です。しかし、有料に比べると、機能などが自施設に合うとは限りません。コストが無料ですむという点だけでなく、以下の2点に関しても確認して導入を検討することをおすすめします。
- 導入の形態が合っているか
- 周辺の地域で使用されているシステムか
以上の2点について、説明します。
導入の形態が合っているか
電子カルテの導入形態には、選択肢がいくつかあります。専用のシステムを利用する、テンプレートを活用するなど、メーカーによって形態が異なります。電子カルテの導入の目的にそった、選択を行いましょう。
どの形態を導入するにしても、電子カルテの導入目的にあっているか見定め、スタッフが効率的に業務を行えるようにすることが大切です。
周辺の地域で使用されているシステムか
地域の医療機関などと、情報を共有しやすいシステムを選ぶことをおすすめします。
昨今、地域で連携するためのネットワークの構築が進んでいます。そのため、地域のケアマネジャーや薬剤師、訪問看護師など多くの職種と情報を共有することが重要です。
地域によっては、特定の電子カルテシステムを推進していることがあります。周囲の医療機関との連携を深めるために、情報を共有しやすいシステムを選ぶとよいでしょう。
無料で使える電子カルテ3選
無料で使える電子カルテを3つ紹介します。
- きりんカルテ
- Doctor_File
- Carute File
有料と比べ、無料の電子カルテは機能やサポート力がおとろえる部分があります。高機能な電子カルテで、完全に無料のシステムは残念ながらありません。そのため、無料のシステムをまず利用し、その後に低コストの電子カルテに移行するのもいいでしょう。
きりんカルテ
初期費用 | 無料(レセコン導入費用:300.000円~) |
---|---|
主な機能 | 予約機能、在宅機能、自由診療機能、画像撮影機能 |
月額費用 | 22,800円~ |
利用料は無料で高機能で、不慣れな方でも使いやすい無料の電子カルテです。しかし、レセコンとの連携が必須で、レセコン導入に費用がかかります。電子カルテ自体の導入コストは無料ですが、レセコン導入費用と合わせコストを考えておく必要があります。
Doctor_File
初期費用 | 無料 |
---|---|
主な機能 | 定型文登録 Word文書との連携 診療情報提供書と診断書の作成 |
月額費用 | 14日間の無料の使用機関がある |
シンプルで使いやすいのが特徴です。Microsoft Accessのテンプレートとして利用が可能です。主にクリニック、整骨院向けの無料の電子カルテです。
Carute File
初期費用 | 無料 |
---|---|
主な機能 | 閲覧機能 |
月額費用 | 無料 |
紙カルテをスキャンしPDFファイルに変換するソフトです。閲覧のみの機能であるため、書き込みをすることはできません。しかし、場所を選ばず、どこでも閲覧することができます。
低コストの電子カルテ3選
無料の電子カルテだと、自施設にどうしても合わないということもあるかと思います。それでもやはり、電子カルテの導入を検討したい方に、低コストで導入できる電子カルテについても紹介します。
導入コストを低くおさえることができる電子カルテは、以下の3つです。
- エムスリーデジカル
- Opt.one3
- CLIUS
費用や特徴についてまとめていますので、参考にしてください。
エムスリーデジカル
初期費用 | 無料 |
---|---|
主な機能 | 検査結果ビューアー 適応症・処置行為自動学習(AI)iPadカルテアプリ 処方監査オプション M3 DigiKar モバイル |
月額費用 | 11,800円〜 |
初期費用が無料のクラウド型の電子カルテです。AI機能でカルテ入力の時間を削減することできます。レセコンの連動を選ぶことができるので、利便性が高いです。
また、iPhoneを持っていたら どこでもデジカルが見れるアプリ「M3 DigiKar モバイル」を使うことができます。さらに、専用のiPad Proを利用し、紙カルテに記入するようにデータを入力することができます。iPad Proを試用できるプランもあるため、導入時に申し込んでみることもおすすめです。
Opt.one3
初期費用 | 親機1,900,000円 子機1台100,000円 |
---|---|
主な機能 | SOAP入力 SOPAIE式衛生士業務記録簿 PDA歯周病検査 訪問診療用カルテ入力 レセプトチェック処理 介護レセプト請求 |
月額費用 | 親機28,600円 子機1台1,200円 |
月額利用契約にすることで低コストで、最新のシステムを利用できます。AIによる治療計画やカルテ作成をサポートするシステムがあるのも特徴です。
CLIUS
初期費用 | 200,000円~ |
---|---|
主な機能 | WEB問診 予約機能 オンライン診療/在宅診療 薬用量機能 |
月額費用 | 12,000円~(ライセンス数5以下の場合) |
アップデートの更新時の費用は無料で行うことができます。Mac、Windows、iPadのどれでも操作できるので、業務に合わせて選択することができます。予約や問診、経営分析まで一元化できるのも、CLIUSの電子カルテの特徴です。さらに、AI機能を搭載しているため、カルテの入力時間を削減できることもメリットです。そして、離島施設での使用の実績があり、ほぼ全ての診療科に対応できます。
電子カルテの導入コストをおさえるには?
本項では、電子カルテの導入コストをおさえるポイントを紹介します。ポイントは以下の3つです。
- 見積りの比較
- クラウド型を選択
- 電子カルテ補助金を活用
導入コストをおさえるためには、重要なポイントです。ぜひ参考にしてください。
見積もりの比較
導入コストをおさえる上で最も重要なポイントは、見積りの比較です。複数のメーカーから見積りをとり、比較することをおすすめします。
比較することで、自施設に合った電子カルテをできるだけ低コストで選定できます。見積りをとる時は、初期費用だけでなく、毎月の費用や周辺機器の価格も含めてもらいましょう。総コストを把握することで、予算内で導入することが可能になります。
クラウド型を選択
前述したように、オンプレミス型に比べて、クラウド型の方がコストが低いです。クラウド型の電子カルテが自施設に合う場合、クラウド型を選択するのがよいでしょう。
低コストで導入できるクラウド型電子カルテについては、次項で詳しく説明します。クラウド型を検討している方はぜひ、読んでください。
電子カルテ補助金を活用
可能な限り費用をおさえるために、公的な補助金を利用しましょう。厚生労働省は、電子カルテの導入を推奨しており、補助金の対象となっています。
電子カルテの導入に使える補助金の種類などについては、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
関連記事:電子カルテ補助金とは?医療ICT基盤整備事業の全てを解説!
クラウド型電子カルテなら無料・低コストで導入できる
クラウド型の電子カルテは簡単に安価で導入することができます。従来のオンプレミス型は、自施設にサーバーを設置しなければいけません。クラウド型は、メーカーに管理されているサーバーにアクセスするだけで、電子カルテを導入することができます。
しかし、クラウド型でコストを抑えることができるとしても、導入の際にクラウド型について詳しく知っていないと、不安が残るでしょう。以下では、クラウド型電子カルテのメリット・デメリットについて解説します。
クラウド型電子カルテのメリット
クラウド型電子カルテのメリットは以下の4つです。
- 導入コストを削減
- バックアップが可能
- 端末や場所に制限がない
- データを共有しやすい
それでは、1つずつ説明していきます。
導入コストを削減
1つ目は、導入コストを削減できることです。前述しているように、オンプレミス型に比べ安価に導入できます。初期費用は10万円〜数十万円で、月々の料金は1万円〜数万円で利用できることが多いので、コスト面の負担を減らすことができます。
さらに、オンプレミス型は、5年ごとの買い替え・更新が必要となります。買い替え更新の相場は300万円〜500万円です。一方、クラウド型は5年ごとの買い替え・更新が不要であるため、ランニングコストも抑えることができます。
バックアップが可能
2つ目は、バックアップが可能なことです。火災などによりサーバーが故障してしまうと、オンプレミス型では、すべてのデータを失ってしまうことがあります。
一方、クラウド型では自動的なバックアップとデータの復旧機能があるため、データの安全性が確保されます。
端末や場所に制限がない
3つ目は、端末や場所に制限がないことです。
クラウド型では、インターネット環境があり、サーバーに接続できれば、場所を選ばず、最新の情報を保存・閲覧できます。訪問診療や出張先でもカルテを確認できるため、利便性が高いです。チーム医療や地域医療の促進にも役立ちます。
データを共有しやすい
4つ目は、データを共有しやすいことです。院内機器や検査会社など、個別の設定せずに連携がしやすいことも、クラウド型の利点です。インターネット経由でアクセスできるため、医師や看護師、検査技師などの関係者とリアルタイムで情報を閲覧できます。また、外部からもデータにアクセスできるため、外部の検査会社と連携できます。連携により、検査結果などの最新のデータが迅速に共有できます。
クラウド型電子カルテのデメリット
クラウド型電子カルテのデメリットは、以下の3つです。
- インターネット環境が必須
- カスタマイズが制限される
クラウド型電子カルテを導入する際には、メリットだけでなく、デメリットも考慮の上で選定することをおすすめします。
インターネット環境が必須
クラウド型電子カルテを使用するためには、安定したインターネット環境が必須になります。インターネットへの接続が不安定な場合、診療記録などの入力や更新が困難になり、業務に支障が生じる可能性があります。
カスタマイズが制限される
クラウド型電子カルテでは、一般的にカスタマイズが制限されていることがあります。カスタマイズ性が低いため、施設に合わせた電子カルテの運用ができないこともあります。そのため、クラウド型電子カルテを導入する場合は、事前にカスタマイズできる内容が施設のニーズに合うか見定める必要があります。
電子カルテを導入するまでの5つのステップ
最後に電子カルテを導入するまでの流れを紹介します。メーカーによって多少、流れが変わってきます。
一般的な流れとして、以下の5つのステップがあります。
- 自施設に合うか検討
- データの移行
- システムの設定とカスタマイズ
- 試験的に運用
- 本格的に運用
- 継続的に評価
スムーズに導入し、効率的な業務を行うために、電子カルテの導入について知っておくことが大切です。
上記の5ステップについて、説明していきます。
自施設に合うか検討
複数のメーカーを比較して、自施設に合う電子カルテを選びます。導入する電子カルテを検討することは、とても重要なステップです。導入に必要なコスト面やサポート体制、カスタマイズの可能性、セキュリティー対策など、重視する項目をまとめておきましょう。
このステップを軽視して導入してしまうと、導入後に業務の効率が悪くなるだけでなく、コストも高くなる可能性があります。電子カルテの導入における費用対効果を考慮した上で、最適なメーカーを選びます。
データの移行
既存の電子カルテのデータや紙カルテのデータを導入した電子カルテに移行します。重複が誤りがないように注意し、正確にデータを移行します。データはバックアップしておき、安全性を確保しておくとよいでしょう。
システムの設定とカスタマイズ
自施設で実現したい運用をメーカーに伝えましょう。
メーカーより渡されるヒアリングシートを活用し、施設で業務の聞き取り調査などを行い、課題を明確にします。そして、どのようなシステムやカスタマイズが必要か洗い出し、設定していきます。
試験的に運用
本稼働の前に試験的に運用します。実際に使用するスタッフに、操作方法やデータの入力を教育を行います。慣れない作業をするため、操作するのに時間がかかることがあります。そのため、一定の期間は紙カルテと併用するなどして、業務の負担がかからないようにしておくこともおすすめします。
試験運用の段階で問題点があれば、修正・調整を行いましょう。試験運用の時点で十分な準備を行うことで、スムーズな電子カルテの導入につながります。
本格的に運用
試験運用で問題なく使用できるようになれば、本格的に運用をはじめます。サポート体制によっては、メーカーの立ち合いのもと開始します。試験稼働では発生しなかったトラブルが生じることがあります。トラブルが生じた場合は、メーカーにフィードバックし、問題を解決していきましょう。
継続的に評価
電子カルテの導入後に、継続的に評価することも必要です。電子カルテの機能性や効率性を保証することで、医療の質を向上させることができます。スタッフのフィードバックだけでなく、セキュリティに関しても評価しましょう。電子カルテの継続的な評価は、医療の質と安全性の確保に欠かせません。
まとめ
本記事では、無料で導入できる電子カルテの紹介や低コストで導入できる電子カルテ、導入コストをおさえるポイントなどについて解説しました。できるだけコストをおさえて電子カルテを導入を検討している方は、導入コストについてしっかり知っておきましょう。情報が少ない状態で導入すると、自施設に合わないだけでなく、高額な費用がかかってしまうという可能性があります。業務の効率化が図れるだけでなく、コストをできるだけおさえ、自施設にあった電子カルテの導入を実現しましょう。