毎年多くの医師が開業医として活躍していますが、同時に廃業に至ってしまうクリニックもあることをご存じでしょうか。
開業医の廃業率は全体的に見てそこまで高くはないものの、廃業しているクリニックが実在しているということは事実です。
今回は開業医の廃業率がどのくらいなのか、そして廃業に至ってしまう理由やその対策方法などについても紹介していきます。
開業医の廃業数や廃業率について
開業医の廃業というのは、どの開業医にとっても他人事ではありません。
実際に、調査会社の帝国データバンクの調査によると、クリニックもしくは診療所の休廃業件数や倒産件数がわかります。医療機関の倒産動向調査(2021 年)/医療機関の休廃業・解散動向調査(2021 年)
2021年は廃業件数は471件、倒産件数は22件という結果でした。
果たして多いのか少ないのか件数を見ただけでは分からないかと思います。
しかし、実際の調査表を目にすると廃業・倒産ともに増加傾向であることが分かるのではないでしょうか。
そして、厚生労働省で公表している医療施設動態調査(令和5年4月末概数)を見てみると全国の医療施設は以下の通りとなります。
全国で見ると診療数は10万5,119数で、廃業率・倒産率は0.46%となります。
結果としては医師の廃業率は低い方であると言えるでしょう。
医療機関は廃業になりにくいというイメージを持つ人が多い印象ですが、事実としても間違っていないということが調査結果を見て分かりました。
クリニックの廃業率が上がってしまう理由
クリニックの廃業率が低いというのは前述でも述べましたが、そうはいっても廃業してしまう開業医がいるのは事実です。
では、どのようなことが理由で開業医の廃業率が上がってしまうのでしょうか。
- 経営スキルの不足
- クリニックの立地が良くなかった
- 医師としてのスキルや経験不足
- スタッフとの人間関係の構築ができなかった
- 院長の高齢化で後継者がいなかった
- 資金繰りがうまくいかなかった
今回は、6個の理由について詳しく説明していきます。
経営スキルの不足
開業医に経営スキルがなくても医師としてのスキルがあれば集患できると考えている医師もいるかもしれません。
しかし残念ながらそんなことはなく、医師にも多少のマネジメント能力は必要でしょう。
開業するにしても、多少のマネジメント能力がなければ経営不振に陥ってしまい、廃業率が上がってしまいます。
そういったことを防ぐために、経営に自信がない医師は理事を雇うなどしてクリニックのマネジメントを一任してしまうという方法もあるので検討しておくのも良いでしょう。
クリニックの立地が良くなかった
クリニックの立地条件というのは非常に重要なポイントです。
診療圏調査が不十分であったばかりに、ターゲットとしている患者がアクセスしにくい場所にクリニックを構えてしまうと患者に認知してもらえる機会すらなくなってしまいます。
たとえば、高齢者をターゲットとした診療科であれば高齢者が多く住んでいる地域を調査するべきでしょう。
小児科をメインとした診療を行うのであれば子育て世帯が多く住んでいるエリアにクリニックを構えるべきです。
駅から近い場所を選んだとしても競合クリニックがあれば集患はなかなか容易ではありません。
集患が難しいと思われる場所にクリニックを構えると経営不振にもつながりますので注意しましょう。
医師としてのスキルや経験不足
患者の立場から考えれば、スキルや経験が豊富な医師に診てもらいたいと考えるのが当たり前でしょう。
スキルが高くなければ、患者を診察している際にも患者へ不安を与えてしまいかねません。
それにスキルや経験が不足していた結果、医療過誤や医療ミスに繋がってしまう可能性もあります。
開業を目指すのであれば、経営スキルや立地だけでなくまずは「医師としてスキルを上げる」ことを第一に考えるべきでしょう。
患者は知識な豊富な医師の元へ必ず訪れます。
開業する目標を立てたら、同時に医師として学べる知識は身につけておきましょう。
スタッフとの人間関係の構築ができなかった
クリニックは言ってしまえば狭い世界です。
その世界の中で関わっていくスタッフと良好な関係を保つことが廃業率を下げるカギともなります。
しかし、医師がスタッフ全員と良好な関係を気付くことができたとしてもスタッフ同士ではどうすることも出来ません。
トラブルの元となったスタッフを離職させられれば解決とはいきませんし、トラブルを解決するまでの間にトラブルの元となったスタッフ以外が離職してしまう可能性も大いにあります。
スタッフが少なくなると現場に残ったスタッフの仕事の負担も増えてしまい、更に離職率が上がってしまうでしょう。
クリニックが円滑に回らなくなると経営そのものの継続が困難になってしまうかもしれません。
そうならないためにも、定期的にスタッフとの個別面談を行うなどしてそれぞれが溜め込まずに吐き出せるような機会を作ってあげるべきです。
そのような環境づくりも経営者である医師の仕事であり、廃業率を下げるためのポイントとも言えます。
院長の高齢化で後継者がいなかった
開業医も続けていれば年を取りますので、70歳を過ぎたころからこれからの自分のクリニックについて考えるでしょう。
その時に直面する問題が後継者問題となります。
自分の子どもが医師になればもしかしたら後継者としてクリニックを経営してくれるかもしれません。
しかし、自身が取り扱っている診療科とは違う分野の診療科を専門としていたり、実際に話をしたら継承するつもりがないなどの行き違いが発生してしまう可能性も少なくはありません。
診療分野が違うのであれば、もしかしたらクリニックの名称を変えて継承してくれるかもしれませんが、継承するつもりがないと言われてしまった場合は廃業率がぐんと上がってしまうので、注意しておきましょう。
資金繰りがうまくいかなかった
資金繰りが悪化して経営難で廃業してしまう場合もあれば入出金の状況を把握できなくなり黒字倒産してしまう場合もあります。
そこで、最低限で良いので財務の知識をしっかりと身につけておけば廃業率を下げることも出来るでしょう。
「貸借対照表」「損益計算書」「売上管理」を自分で管理できると良いですが、自分で作成するとなると時間も労力もかかってしまいます。
自信がない・作成する余裕がない場合は経営のプロである税理士に相談するのが良いでしょう。
廃業することに関してのメリット・デメリット
廃業することがすべて悪いわけではありません。
廃業することに関して、メリットもデメリットも存在します。
それぞれ説明していきますので、参考にしてみてください。
メリット
メリットとして挙げられるのは「自分のタイミングで引退できるということ」「後継者問題で悩まずに済むこと」です。
開業医であれば、自分が「そろそろ院を閉めようかな」と思ったときも自分の好きなタイミングで引退することができます。
そして、高齢になった際に考えなければならない後継者に関しても、廃業するのであれば考える必要もなくなるので、2点に関しては廃業するメリットであるということができるでしょう。
デメリット
反対に、デメリットは「様々なコストがかかる」ということです。
どんなコストがかかるのかと言うと、「勤務しているスタッフの退職金」「医院の建物の取り壊しに関する費用」「医療機器などの破棄費用」「医療用品や薬剤の破棄費用」「登記や様々な手続きに関する費用」です。
かなり多くのコストがかかってしまうため、高いと1000万円を超えてしまうかもしれません。
医師にとってのデメリットはコスト面だけかもしれませんが、患者や医院で働いていたスタッフにとっても廃業されることはデメリットとなります。
かかりつけにしていた患者からしたら頼れる医師がいなくなってしまうため、新しくかかる医院を探さなければいけません。
また、スタッフは廃業することにより職を失ってしまうため、就職活動を始めなければなりません。
このように、廃業することによるデメリットは医師だけでなく患者やスタッフなど、多くの人を巻き込んでしまいます。
廃業率を上げないように医師ができる対策とは?
廃業率を上げてしまう原因や、廃業することによるメリットやデメリットをご紹介してきました。
では、廃業率を上げないように医師ができる対策というのはあるのでしょうか。
- スタッフ管理・スタッフ教育を行う
- 後継者を早めに見つけておく
- 経営を安定させる
一言で記載すると簡単なことだと思うかもしれません。
しかし、この3点が廃業率を上げないようするために重要なポイントと言えます。
ぜひ参考にしてみてください。
スタッフ管理・スタッフ教育を行う
スタッフを雇用するということは、そのスタッフとの人間関係を良好にしておくことも大切なことだと言えます。
またスタッフ同士のトラブルが起きた際も、医師がスタッフ全員としっかりコミュニケーションをとっていれば大きなトラブルにならずに住むでしょう。
前述でも説明しましたが、定期的にスタッフと向き合って話をする時間を少しでも作った方が業務に関しても効率よく行うことができるはずです。
また、業務を効率よく行うためにはスタッフの教育も重要となってきます。
業務が滞ってしまうと、結果的に患者を待たせてしまったり手間を取らせてしまうなどお互いに良くないことしか起こりません。
新人のスタッフが入ってきた際にしっかり対応できるよう、マニュアルなどを作っておくのも良いでしょう。
後継者を早めに見つけておく
後継者に関する問題はかなりの時間を要すことになるでしょう。
開業医の子どもは、同じように医師を目指す人が多い印象があります。
開業医である自身も「いつかは自分の医院を継承してほしい・地域に根付いた医療を継いでほしい」と考えるはずです。
しかし、開業医の子どもだからと言って必ず医師になれるという訳ではありません。
実際に医学部ではなく他の学部に興味を持ってしまう・医学部に進学ができなかったなど理由は様々です。
また、同じように医師になれたとしても子ども自身に後継者になる気がない可能性だってあります。
「では親族に」と思っても適正な後継者がいるのかどうかも分かりません。
自分の子どもや親族へと感がるのも良いですが、選択肢の中に「第三者へクリニックを継承すること」を考えてみても良いでしょう。
M&Aとは「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」と意味はそのまま「合併・買収」のことを指します。
クリニックでも合併や買収なんてあるのかと思おうかもしれませんが、M&Aは大手企業だけでなく中小企業でも行われている事業です。
クリニックがM&Aで買収されることにより、M&A専門家が広い地域の中から後継者を探してくれるため、問題の早期解決が望めます。
また、閉院のコストもかからずにクリニックの譲渡益や営業権なども得ることができるため、引退後も資金を確保することが可能です。
経営を安定させる
廃業率を下げる重要なポイントとして、クリニックの経営を安定させることがあります。
ですが、どうしたら経営が安定するのか分からない医師もいるでしょう。
保険診療のクリニックであれば、毎月の患者人数が安定すれば収益の見込みが立ちます。
そこから、経費と院長の収入分・借入金の返済分を差し引きます。
マイナスにならなければ安心できるでしょう。
お金が入ってくる分を増やし、出ていく分を減らすにはどうしたらよいのかをしっかり考えていくことが非常に重要です。
また、現代ではSNS(Twitter・Instagram・LINE公式アカウント)などを利用して集患しようと考えるクリニックも増えてきています。
コストを削ることだけを考えるのではなく、必須経費・不必要経費をしっかり分別していきましょう。
そうすれば、患者・従業員ともに満足できて経営も不安定になることもないはずです。
廃業率を低く維持するには多くのスキルが必要
廃業率は全国すべての企業の中では低い方かもしれません。
しかし、依然と比べれば廃業率が上がってきていることは紛れもない事実です。
自身の運営するクリニックの廃業率を上げないように、医師自身も様々なスキルが必要となってきます。
開業前からできることも多くあるので、開業医を目指すのであれば医師としてのスキルだけでなく経営に関する知識も吸収しておきましょう。